Case Practice

機械メーカーは赤字の家電子会社を売却すべきか立て直すべきか

  • M&A・投資判断
  • 難易度:基礎
  • 目安 20分
設問

産業機械を主力とする売上高3,000億円のメーカーがあります。連結の営業利益率は8%ですが、30年前に多角化の一環で始めた家電部門(子会社)が、売上300億円に対して営業赤字20億円を3年続けています。主力商品は空調機器と調理家電で、国内の量販店向けが売上の大半です。
社長から、この子会社を売却すべきか、それとも立て直すべきかを問われました。結論と理由を述べてください。

まず時間を計って、声に出して解いてみてください。行き詰まったらヒントを1つずつ開き、解き終えてから解説を確認します。

ヒント 1 を見る

「立て直せるか」と「自社が持ち続ける意味があるか」は別の問いです。両方を検討して結論を出しましょう。

ヒント 2 を見る

赤字の原因を売上と費用に分けて特定します。構造的な原因(規模の不足、価格競争)か、一時的な原因かで、立て直しの見込みが変わります。

ヒント 3 を見る

売却する場合も、誰に、いくらで、どの条件で売るかで親会社の得るものが変わります。買い手の候補を考えてみましょう。

解説を表示する解答の流れ・数値例・評価のポイント・よくあるNG・発展問題

前提の確認

最初に、面接官と次の点をすり合わせます。

  • 社長の問題意識:家電部門の赤字が3年続き、主力の産業機械の利益を食っている。ただし創業家の思い入れがあり、売却には社内に抵抗がある(仮定)
  • 子会社の概要:売上300億円、営業赤字20億円、従業員1,500人(仮定)。量販店向けの空調機器と調理家電が主力
  • 親会社との関係:産業機械と家電では技術、顧客、販路の共通点が小さく、部品の共同購買もほとんどない(仮定)
  • 判断の基準:「立て直せるか」と「自社が持ち続ける意味があるか」の2つの問いに分けて答える

解答の流れ

1. 判断軸の設定

  1. 赤字の原因:一時的な要因か、規模や競争環境による構造的な要因か
  2. 立て直しの見込み:自社の下で黒字化できるか、それに要する期間と累積の損失
  3. 保有の意味:親会社の主力事業にとって、家電部門を持つ価値があるか
  4. 売却の条件:買い手の候補、想定される価格、雇用などの条件

2. 各判断軸の検討

赤字の原因:売上300億円に対し、売上原価240億円(原価率80%)、販管費80億円で、営業赤字20億円です(仮定)。大手家電メーカーの原価率は70%前後(仮定)で、10ポイントの差があります。差の主因は規模です。同じ分野で大手は10倍の売上を持ち、部品の調達価格と開発費の負担で不利な状況にあります。加えて量販店向けが大半のため価格の決定力がなく、値引き競争で利益が出ません。これは一時的な要因ではなく、構造的な問題です。

立て直しの見込み:赤字の大きい調理家電から撤退し、比較的競争が緩やかな業務用空調に絞る案を考えます。売上は200億円に縮小し、原価率は75%、販管費は55億円に減ると置きます(仮定)。

縮小後の営業利益 = 200億円 − 150億円 − 55億円 = −5億円

赤字は縮みますが黒字にはならず、撤退費用20億円と黒字化までの累積赤字を合わせると、3年で50億円程度(仮定)の追加負担になります。しかも、業務用空調で成長できるかは不確実です。

保有の意味:産業機械と家電の間に技術や販路の共有はほとんどなく、家電部門を持つことで主力事業が強くなる関係にありません。経営陣の時間が赤字部門の対応に割かれることも、目に見えない費用です。

売却の条件:買い手の候補は3つ考えられます。

  • 同業の家電メーカー:規模を得ることで原価率を改善でき、買い手にとってのシナジーが最も大きい
  • 海外メーカー:国内の量販店の販路と製品の認知度を求める
  • 投資ファンド:自ら再建して売却益を狙うが、提示する価格は低い

赤字のため価格は利益からは決まらず、純資産100億円(仮定)を基準に赤字を織り込んで50億円前後と見ます。

親会社への影響:売却後は連結売上2,700億円、営業利益260億円で、利益率は8%から約9.6%に高まります。一方、子会社に配賦していた本社費用10億円(仮定)は親会社に残るため、実際の改善は20億円ではなく10億円程度と見ておく必要があります。

3. リスクと条件

  • 雇用:従業員1,500人の処遇は、買い手の選定と条件交渉で最も重い論点
  • ブランドと顧客:家電と産業機械で同じ社名を使っている場合、売却後の名称の扱いを決める必要がある
  • 社内の抵抗:創業家や長年の従業員の反発で決定が遅れると、その間も赤字が積み上がる

4. 結論

結論は売却です。赤字は規模と競争環境による構造的なもので、自社の下で立て直しても黒字化の見込みが薄く、主力事業との相乗効果もありません。ただし、次の条件が満たされない場合は、調理家電から撤退して業務用空調に絞る縮小再建を1年行い、赤字を縮めたうえで改めて売却先を探します。

  • 規模の利益を持つ同業のメーカーを含めて複数の買い手候補が現れ、純資産の半分程度の価格で合意できること
  • 買い手が一定期間の雇用継続を約束し、従業員への説明を親会社と共同で行えること

面接官とのやり取りの例

候補者:「赤字が3年続いているとのことですが、原因が一時的なものか構造的なものかを確認したいです。競合と比べて原価率が高いのではないかと考えています。」

面接官:「原価率は80%です。大手は70%前後と聞いています。」

候補者:「10ポイントの差は、規模による調達と開発費の差が主因と考えます。この場合、自社の下で立て直すのは難しそうです。次に、家電部門と産業機械の間に、技術や顧客の共有はありますか。」

面接官:「ほとんどありません。工場も別で、共同購買もしていません。」

候補者:「であれば、持ち続ける意味は薄いと判断します。売却する場合、従業員1,500人の雇用が最大の論点になると思いますが、社長はこの点をどう考えていますか。」

面接官:「雇用は守りたいと強く考えています。それが売却をためらう理由の1つです。」

候補者:「では、買い手の候補を同業のメーカーに絞り、雇用の継続を条件に交渉する方針を提案します。価格を多少譲っても、雇用の条件を優先するのが社長の意向に沿うと考えます。」

評価のポイント

観点 見られていること
前提確認 「立て直せるか」と「持ち続ける意味があるか」を分けて問いを立てられたか
判断軸 赤字の原因を構造的か一時的かで見極め、縮小再建の採算を数値で確かめたか
数値の扱い 売却後の親会社の利益率と、残る本社費用の影響まで示せたか
結論の出し方 売却か再建かを明言し、買い手と雇用の条件で代替案への線を引けたか

よくあるNG

  • 「赤字だから売る」と即答し、赤字の原因と立て直しの可能性を検討しない
  • 反対に「30年続けた事業だから守る」という感情論で、採算の見通しを示さない
  • 売却の相手や価格の目安を考えず、「売却」で議論を終える
  • 従業員の雇用や社内の反発など、決定を左右する実行面の論点に触れない

発展問題

同じ子会社について、売却ではなく 同業メーカーとの合弁会社に移す(親会社が一部の株式を持ち続ける)案が浮上しました。全部売却と比べた利点と欠点を整理し、どのような場合に合弁を選ぶべきか、条件を添えて述べてください。

※ 本問の数値・企業はすべて説明のための架空の設定です。

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