戦略コンサルティングファームのプロジェクトは、業界を問わず「全社戦略」「成長戦略」といった共通の枠組みで語られがちですが、実際に扱う論点は業界ごとに大きく異なります。業界特有の構造や規制、収益モデルを理解していなければ、筋のよい仮説を立てることは難しいためです。
本記事では、戦略ファームが関わることの多い6つの業界について、近年取り上げられやすい経営課題と、その業界で強みを発揮しやすい人材像を整理します。あわせて、業界知識をどう身につけるかについても触れます。
※ 本記事は一般的な傾向をまとめたものです。実際に扱うテーマはファーム、クライアント、時期によって異なり、特定の企業の事例を示すものではありません。
製造業
日本の戦略ファームにとって、伝統的に案件の多い領域のひとつとされます。取り上げられやすい経営課題には、次のようなものがあります。
- 事業ポートフォリオの見直し:複数事業を抱える企業において、どの事業に資源を集中し、どの事業を切り離すかの検討
- サプライチェーンの再設計:調達先の分散、在庫と生産拠点の最適化、地政学リスクを踏まえた供給網の見直し
- 海外展開とグローバル拠点戦略:成長市場への進出方針、現地法人の位置づけ、グローバル本社機能のあり方
- モノからコトへの転換:製品販売に加えて、保守・運用サービスやデータを活用した収益モデルを構築する動き
- 脱炭素対応:製造プロセスや調達段階を含む環境負荷への対応を、コストではなく競争力の観点から検討する動き
強みを発揮しやすい人材像としては、メーカーでの生産管理、調達、生産技術、海外事業、商品企画などの経験者が挙げられます。技術系のバックグラウンドを持ち、技術の中身と事業性の両方を理解して議論できる方は、製造業案件で力を発揮しやすいと言われます。
金融
銀行、保険、証券、資産運用など、業態ごとに論点が分かれるのが特徴です。規制の影響が大きく、制度への理解が議論の前提になる領域でもあります。
- 収益構造の見直し:金利環境や市場環境の変化を踏まえた、収益源の多様化や手数料ビジネスの強化
- チャネル戦略:店舗網や営業体制のあり方と、デジタルチャネルとの役割分担の再設計
- 既存システムの刷新:長年使われてきた基幹システムの更新と、それに伴う業務プロセスの見直し
- リスク管理・規制対応:規制環境の変化に対応する体制整備と、それを踏まえた事業判断
- 異業種との連携:決済や金融サービスを他業種のサービスに組み込む動きへの対応
人材像としては、金融機関での法人営業、市場部門、リスク管理、商品開発などの経験者や、金融領域のシステムに関わってきた方が想定されます。制度や商品性を正確に理解したうえで、事業の観点から意味づけできることが価値になりやすい領域です。
ヘルスケア・製薬
研究開発に長い時間と大きな投資を要し、規制当局の承認や公的な価格制度の影響を強く受ける点が、他業界と大きく異なります。
- 製品ポートフォリオ戦略:開発中の候補群をどう評価し、どこに投資を集中するかの判断
- 導入・提携・M&A:自社開発だけでなく、外部の技術や製品を取り込む形での成長戦略
- 上市戦略:新製品をどの地域で、どの患者層に、どのような体制で展開するかの設計
- デジタルヘルス:診断や治療、患者支援の領域でデータやデジタル技術を活用する取り組み
- 医療提供体制に関わるテーマ:医療機器や病院経営、介護領域における事業のあり方
人材像としては、製薬企業の開発・営業・マーケティング部門、医療機器メーカー、医師や薬剤師などの資格を持つ方、ライフサイエンス領域の研究経験者などが挙げられます。専門的な内容を経営の言葉に翻訳できることが強みになります。
消費財・小売
消費者の行動変化が業績に直結し、変化のスピードが速い領域です。
- ブランド・商品ポートフォリオの再構築:どのブランドを育て、どれを整理するかの判断
- チャネル戦略:実店舗、EC、直販などをどう組み合わせ、それぞれにどう役割を持たせるか
- 価格戦略:原材料費や物流費の変動を踏まえた価格設定と、消費者の受容度の見極め
- 顧客データの活用:購買データや会員基盤をもとにした顧客理解と、販促施策の高度化
- 店舗網・物流網の最適化:出退店の方針、配送体制、在庫配置の見直し
人材像としては、消費財メーカーや小売企業でのマーケティング、商品企画、営業、店舗運営、EC事業などの経験者が挙げられます。定量データと消費者インサイトの両面から打ち手を導いた経験を語れると強みになります。
通信・テクノロジー
技術の変化が事業構造そのものを変える領域であり、既存事業の延長線上にない議論が求められます。
- 既存事業の成長鈍化への対応:主力事業が成熟する中での、新たな収益源の検討
- 新規事業・周辺領域への展開:保有する顧客基盤やインフラを活かした事業領域の拡張
- プラットフォーム戦略・提携:他社との連携やエコシステム構築のあり方
- AI・データ活用:自社サービスへの技術の組み込みと、そのための組織・人材体制の整備
- 設備投資の判断:ネットワークやデータセンターなど大型投資の優先順位づけ
人材像としては、通信事業者やIT企業での事業企画、プロダクトマネジメント、エンジニアリング、データ分析などの経験者が想定されます。技術の可能性と限界を理解したうえで事業性を語れる方は、この領域で重宝されやすいと言われます。
エネルギー・インフラ
政策や規制の動向が事業環境を左右し、投資の回収期間が長いという特徴があります。
- 脱炭素・エネルギー転換:既存の事業構造を前提としない、中長期のエネルギー事業のあり方
- 新エネルギー領域への投資判断:再生可能エネルギーや次世代技術への参入可否と進め方
- インフラの老朽化対応:設備の更新計画と、限られた投資枠の中での優先順位づけ
- 規制環境の変化への対応:制度変更を前提とした事業ポートフォリオの再設計
- 人材と技術の継承:現場を支える技術や運用ノウハウをどう維持していくか
人材像としては、電力・ガス・鉄道・建設などのインフラ事業者、プラントエンジニアリング、官公庁や政策関連機関での経験者などが挙げられます。長期の視点と、制度・技術・事業性を横断して整理する力が求められやすい領域です。
業界知識はどう身につけるか
「志望する業界の知識がないと不利ではないか」と心配される方もいますが、戦略ファームの選考では、既存の業界知識そのものよりも、未知の業界に短期間でキャッチアップできる力が重視されやすいと言われます。とはいえ、日頃から業界を見る視点を持っておくことは、面接でもプロジェクトでも役立ちます。
- バリューチェーンで捉える:その業界では、どこで価値が生まれ、誰が利益を得ているのかを図として描いてみる
- 収益構造を分解する:売上がどのような要素で構成され、コストのどこが大きいのかを整理する
- 主要企業の開示資料を読む:決算説明資料や中期経営計画には、その企業が課題と考えていることが明示されています
- 業界紙・専門メディアを継続的に追う:断片的な知識ではなく、変化の流れとして捉えられるようになります
- 自分の担当業界を言語化しておく:現職の業界について、構造、課題、今後の方向性を自分の言葉で説明できるよう整理しておくと、面接でも有効です
こうした「業界を構造的に捉える型」を一度身につけておけば、初めて接する業界であっても、同じ手順で理解を組み立てられるようになります。
まとめ
業界ごとに、経営課題の中身も、求められる視点も異なります。ご自身の経験がどの業界のどのテーマとつながるのかを整理しておくと、応募先の選び方にも、面接で語る志望動機にも一貫性が生まれます。同時に、未知の業界を構造的に捉える力を磨いておくことが、コンサルタントとしての土台になります。
Strategy Talentでは、これまでのご経験と業界知見を踏まえ、活かしやすい領域やファームについてご一緒に整理しています。業界の選び方で迷われている段階でも、お気軽にご相談ください。