「もっと上流の仕事に関わりたい」と考えて転職を検討し始めたものの、紹介されるのは今と似た内容の求人ばかり。かといって戦略ファームは選考のハードルが高そうで、自分に可能性があるのかもわからない。総合系・IT系ファームで働くなかで、そうした行き詰まりを感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
このとき、「キャリアアップ=戦略ファームへの転職」と捉えてしまうと、選択肢は一気に狭くなります。実際には、総合系・IT系ファームでの経験を土台にして進める道は複数あり、人によっては戦略ファーム以外のほうが、やりたいことに早く近づける場合もあります。
本記事では、戦略ファーム以外の5つの進路について、「総合系・IT系での経験がどう活きるか」「追加で必要な準備」「向いている人」の観点から整理します。
※ 本記事でいう総合系・IT系ファームとは、BIG4系のコンサルティングファーム、アクセンチュア、ベイカレントなどに代表される、幅広い領域を扱うファームを指します。内容は一般的な傾向であり、求められる要件は企業やポジション、時期によって大きく異なります。
なぜ「戦略ファーム一択」で考えないほうがよいのか
戦略ファームは、論点設計や仮説思考を集中的に鍛えられる優れた環境です。目指す価値のある選択肢であることは間違いありません。ただし、それが唯一の正解というわけではありません。
- やりたいことの中身は人によって違う:経営層の意思決定に関わりたいのか、M&Aや投資に携わりたいのか、自分で事業を動かしたいのか。目的によって、最短の道は変わります
- これまでの経験の活き方が違う:戦略ファームの選考では、特定の専門性よりも思考力が重視されやすいと言われます。一方、他の進路では、ITや業務改革、大規模プロジェクトの経験そのものが評価される場面があります
- 段階を踏むという考え方もある:一度の転職で目的地に着く必要はありません。経験を積み足しながら近づいていく道筋も現実的な選択です
1. 総合系の戦略部門
自社または他の総合ファームの戦略部門は、総合系・IT系ファームのコンサルタントにとって、現在地から最も連続性のある選択肢のひとつです。
経験がどう活きるか:総合ファームの戦略部門は、構想策定から実行へとつなげる案件を強みとすることが多く、実行側の現実を知っていることが価値になります。テクノロジーを前提とした事業戦略やDX構想など、ITの知見が求められるテーマも増えていると言われます。
追加で必要な準備:論点設定と仮説構築の型、ケース面接への対応です。選考の形式が戦略ファームに近い場合もあるため、応募先ごとの確認が必要です。
向いている人:戦略の立案に軸足を移しつつ、実行までの一貫性にも価値を感じる方。ファームという働き方自体は続けたい方。
2. FAS・M&Aアドバイザリー
M&Aの検討から実行、統合までを支援する領域です。
経験がどう活きるか:買収後の統合(PMI)では、業務プロセスやシステムの統合、プロジェクト管理の力が直接求められます。ITデューデリジェンスやオペレーション面のデューデリジェンス、事業再生における業務改革など、総合系・IT系での経験と接点のある業務は少なくありません。
追加で必要な準備:会計・財務の基礎、企業価値評価の考え方です。担当する業務によって必要な深さは異なりますが、財務三表を読み解ける水準は早めに身につけておきたいところです。簿記などの学習から始めるのも一つの方法です。
向いている人:M&Aという具体的な場面で専門性を築きたい方。数字に向き合う仕事に抵抗がなく、将来的に投資や事業会社のM&A部門も視野に入れたい方。
3. PEファンド
企業に投資し、企業価値の向上に関与する仕事です。関心を持つコンサルタントは多い一方で、採用枠が限られ、総合系・IT系ファームから直接移る難度は高いと一般に言われます。投資銀行や戦略ファーム、FASなどでの経験を前提とする募集が多いとされるためです。
そのため、次のような経由ルートを考えるのが現実的です。
- FASや戦略部門を経由する:デューデリジェンスやバリュエーション、事業計画の検証といった、投資業務と接点のある経験を先に積む
- バリューアップ(投資先支援)の役割から入る:ファンドによっては、投資後の経営改善を担う専門チームを置いている場合があり、業務改革やDXの実行経験が評価される可能性があります
- 投資先企業の経営メンバーとして関わる:ファンドの投資先で経営企画や変革の推進を担い、投資の世界との接点を持つ
経験がどう活きるか:投資後の価値向上では、業務改革、コスト構造の見直し、システム刷新など、実行を伴うテーマが多くなります。
追加で必要な準備:財務モデリング、バリュエーション、投資判断の基礎知識です。
向いている人:提言する立場ではなく、結果に責任を負う立場に強く惹かれる方。時間をかけて段階的に近づくことを受け入れられる方。
4. 事業会社の経営企画・DX企画
支援する側から、当事者として自社の経営や変革を担う側へ移る道です。
経験がどう活きるか:DX企画やIT戦略のポジションでは、システム導入や業務改革をやり遂げた経験がそのまま評価されやすい傾向があります。ベンダーやコンサルティングファームを使う側に回るため、支援する側の事情を知っていることも強みになります。経営企画でも、全社横断のプロジェクトを推進した経験は活かせます。
追加で必要な準備:中期経営計画や予算管理に関する理解、財務の基礎です。加えて、クライアントという関係性がないなかで、社内の合意を粘り強く形成していく姿勢が求められます。
向いている人:ひとつの企業に腰を据えて、施策の結果まで見届けたい方。働き方や生活とのバランスも含めて、長期的なキャリアを設計したい方。
5. スタートアップの事業責任者
急成長する組織のなかで、事業の一部または全体を預かる立場です。
経験がどう活きるか:仕組みが整っていない環境に、業務プロセスや管理の型を持ち込める点は強みになります。特に企業向けのITサービスを扱う企業では、大企業の業務や意思決定の進め方を知っていること、導入プロジェクトを率いた経験が、事業開発や顧客支援の場面で活きます。
追加で必要な準備:自ら手を動かして成果を出せる領域を明確にしておくことです。営業、事業開発、カスタマーサクセス、プロダクトなど、どこで価値を出せるかが問われます。待遇の構成や事業の不確実性についても、事前に理解しておく必要があります。
向いている人:整った環境よりも、自分で形をつくっていく過程に面白さを感じる方。肩書きよりも裁量と手触りを重視する方。
5つの進路の整理
| 進路 | 総合系・IT系での経験がどう活きるか | 追加で必要な準備 | 向いている人 |
|---|---|---|---|
| 総合系の戦略部門 | 実行を知る強み、テクノロジーを前提とした戦略テーマ | 論点設定・仮説構築の型、ケース面接対策 | ファームで戦略立案に軸足を移したい人 |
| FAS・M&Aアドバイザリー | PMI、IT・オペレーション面のDD、業務改革 | 会計・財務の基礎、企業価値評価 | M&Aの専門性を築きたい人 |
| PEファンド | 投資後の価値向上における実行経験 | 財務モデリング、投資判断の知識、経由ルートの設計 | 結果責任を負う立場に惹かれ、段階を踏める人 |
| 経営企画・DX企画 | 変革の推進経験、支援側を知る視点 | 経営計画・財務の理解、社内での合意形成 | 当事者として長期で関わりたい人 |
| スタートアップの事業責任者 | 型の持ち込み、大企業の業務理解 | 手を動かせる領域の明確化、不確実性の理解 | 裁量と手触りを重視する人 |
※ いずれも一般的な傾向であり、企業やポジションによって例外があります。
選ぶときの3つの視点
- 立場:支援する側にいたいのか、意思決定して結果を負う側に移りたいのか
- 軸にする専門性:戦略的な思考力、財務、テクノロジー、事業推進のうち、何を自分の軸にしたいのか
- 時間軸:一度の転職で到達したいのか、段階を踏んで近づくことを受け入れられるのか
この3つを言葉にしておくと、似たような求人のなかから、自分にとって意味のあるものを見分けやすくなります。
今の場所でできる準備もある
どの進路にも共通して、現職のなかで進められる準備があります。構想策定フェーズやM&A関連の案件に関われる機会を探す、提案活動に参加して論点を組み立てる経験を積む、財務の基礎を学ぶ、といったことです。
検討した結果、今のファームでの経験をもう少し積み上げると決めることも、立派な選択です。PMOやシステム導入の経験は、上で見たとおり、多くの進路で評価されうる資産です。焦って横滑りの転職をするよりも、行きたい方向を定めたうえで準備に時間を使うほうが、結果として近道になることもあります。
まとめ
総合系・IT系ファームからのキャリアアップ先は、戦略ファームに限られません。総合系の戦略部門、FAS、PEファンド、事業会社の経営企画・DX企画、スタートアップと、これまでの経験が活きる道は複数あります。大切なのは、どの看板を目指すかではなく、どの立場で、何を軸に、どのような時間軸で働きたいのかを明確にすることです。
Strategy Talentでは、戦略ファームに限らず、ご経験と志向に合った進路を幅広く整理するご相談を承ります。まだ方向性が定まっていない段階でも、お気軽にお声がけください。