久しぶりに会った学生時代の友人に、「コンサルって、要は高級派遣でしょ」と言われた。その場は笑って流したものの、帰りの電車でずっと引っかかっている。あるいは、誰に言われたわけでもないのに、常駐先の席で進捗表を更新しながら、「自分は高級派遣なのではないか」と思ってしまう。
そんな夜を過ごしたことがある方に向けて、この記事を書いています。その言葉を否定するためでも、認めるためでもありません。なぜその言葉が刺さるのかを仕事の構造として捉え直し、そこから抜け出すための道筋を整理することが目的です。
※ 本記事の内容は一般的な傾向であり、登場する例は説明のために作成した架空のものです。特定の企業の働き方や評価を示すものではありません。
その言葉が刺さる理由
まず、なぜその言葉がこれほど刺さるのかを考えてみます。
もし自分の仕事に何の疑いも持っていなければ、聞き流せたはずです。刺さるのは、「一部は当たっているかもしれない」と、心のどこかで感じているからです。名刺の肩書きはコンサルタント。しかし、毎日やっているのは、顧客の会議に合わせた資料の準備、議事録、課題一覧の更新。「戦略をやりたくてコンサルになったはずだった」という入社時の想いと、目の前の仕事の中身との間にずれがある。その言葉は、そのずれを外から言い当ててしまうのです。
ここで大切なのは、刺さったこと自体を責めないことです。ずれを感じているのは、あなたが「もっと考える仕事をしたい」と思っている証拠でもあります。
なぜ常駐・工数型の仕事は「そう感じる」のか
次に、常駐やPMOを中心とした働き方が、なぜそのように感じられやすいのかを、構造から見ていきます。
単価×工数という商売の構造
コンサルティングファームの売上は、一般に「単価×人数×期間」で決まると言われます。この構造の中では、コンサルタントが「稼働していること」が価値の第一条件になります。長期の常駐案件は、稼働を安定させるという点で、この構造と相性がよい仕事です。
つまり、常駐案件が多いのは、誰かがあなたを軽く見ているからではなく、商売の構造がそれを必要としているからです。個人の能力とは別の力学が働いています。
顧客の指示で動く時間
常駐先では、顧客の会議体、顧客のスケジュール、顧客の優先順位に合わせて動きます。問いを立てるのは顧客側で、こちらは「決まったことを回す」役割になりがちです。もちろん、その中で工夫や判断はしているのですが、時間の使い方の主導権が自分にない状態が長く続くと、「自分で考えて動いた」という感覚が薄れていきます。
成果物が「作業の完了」で語られる
週次報告、課題一覧、議事録。これらは必要な仕事ですが、「何を決めたか」ではなく「何を終えたか」で評価されやすい成果物です。作業を積み上げても、自分の名前で残る意思決定がない。この感覚が、あの言葉を刺さりやすくしています。
戦略・経営企画の仕事は、何が違うのか
では、戦略ファームや事業会社の経営企画の仕事は、何が違うのでしょうか。理想化せずに整理します。
問いを自分で立てる
戦略の仕事では、「そもそも何を検討すべきか」という論点の設定が、仕事の中心にあります。顧客や経営者から与えられるのは、「この事業をどうすべきか」といった大きな問いであり、それを答えられる形に分解するのは自分たちの役割です。常駐・PMOの仕事で「決まったことを回す」時間が長かった方にとって、ここが最も大きな違いになります。
成果物が意思決定である
作成する資料は、会議のために存在するのではなく、経営者が何かを決めるために存在します。「この提言をもとに、投資を決めた」「撤退を決めた」という形で、成果物が意思決定に直結します。だからこそレビューは厳しく、「この一枚で何が決まるのか」を常に問われます。
時間の売り方が違う
戦略案件は、比較的短い期間で、少人数で、明確な問いに答える形が多いと言われます。工数を長く積み上げるより、限られた期間で答えを出すことが価値になります。この違いは、日々の時間感覚にも表れます。
ただし、戦略ファームにも下積みと泥臭さはある
ここで、正直にお伝えしておきたいことがあります。戦略ファームに移れば、いきなり問いを立てる立場になれるわけではありません。若手のうちは、マネージャーが設計した論点の一部を担当し、リサーチ、データの整理、インタビューのまとめ、深夜のスライド修正といった作業に多くの時間を使います。レビューは頻繁で、資料が何度も差し戻されることもあります。
戦略ファームへの転身を「別の職種に移るのに近い大きなジャンプ」として、入社後に起きがちなことを戦略コンサルへの「ジャンプ」の現実にまとめています。移る前に、ぜひ目を通してください。
違いは、「泥臭い作業があるかないか」ではありません。「その作業が、誰かの意思決定に向かっているかどうか」です。同じデータ整理でも、それが提言の根拠になるのか、報告の添付資料になるのかで、仕事の手触りは変わります。
抜け出すための3つの道
構造が見えたら、次は道筋です。大きく3つあります。
1. 社内で上流の案件へ移る
最も負担が小さい道です。同じファームの中でも、構想策定や新規事業、M&A関連の案件は存在します。「上流をやりたい」という漠然とした希望ではなく、具体的なテーマを挙げてアサイン担当や上司に伝え続ける、提案活動に手を挙げる、構想フェーズに短期間でも入る、といった動き方が必要です。総合系ファームであれば、戦略部門への社内異動という選択肢もあります。判断の軸は戦略部門への社内異動か、転職かで整理しています。
2. 戦略ファームへ転職する
論点設計と仮説思考を仕事の中心に据えたい方にとって、最も直接的な道です。最大の関門はケース面接で、総合系・IT系ファーム出身者には特有のつまずき方があると言われます。総合系・IT系ファーム出身者がケース面接でつまずきやすい5つの型を参考にしてください。
3. 事業会社・PEファンドへ移る
支援する側から、決めて実行する側へ移る道です。事業会社の経営企画やDX企画では、大規模プロジェクトを推進した経験や、大組織での調整の経験が、そのまま評価されやすい傾向があります。FASやPEファンドの実行支援でも、M&A後の統合や投資先の業務改革といった形で、PMOの経験と接点があります。それぞれの特徴は戦略ファームだけが正解ではない|5つの進路にまとめています。
どの道を選ぶかは、「何をしたいのか」によって変わります。戦略ファームが唯一の正解ではありませんし、今の場所で準備を続けるという判断も、立派な選択です。
自分を試す2つの方法
「抜け出したい」という気持ちが、本当に仕事の構造への不満なのか、それとも一時的な疲れなのか。動く前に、自分で確かめる方法が2つあります。
ケース面接の練習問題を解いてみる
ケース面接の練習問題を一問、時間を計って解いてみてください。うまく解けるかどうかは、この段階では重要ではありません。見てほしいのは、「問いを自分で分解する作業」を、面白いと感じるか、苦痛と感じるかです。面白いと感じたなら、問いを立てる仕事への志向は本物です。苦痛だったなら、求めているものは別のところにあるかもしれません。
職務経歴書を書き換えてみる
応募する予定がなくても、職務経歴書を「作業の説明」から「論点と判断の説明」へ書き換えてみてください。具体的な方法はPMO・システム導入の経験を職務経歴書と面接でどう伝えるかで解説しています。
書き換えてみると、二つのことが分かります。一つは、思っていたよりも判断の場面があったこと。もう一つは、それでも書けない箇所があること。前者はあなたの資産であり、後者は今の環境で足りていないものです。どちらも、次の一歩を決めるための材料になります。
その言葉は、仕事の構造の話であって、あなたの話ではない
友人に言われた、あるいは自分で自分に向けてしまったその言葉について、最後にお伝えしたいことがあります。
その言葉が指しているのは、「単価×工数で売られ、顧客の指示で動き、作業の完了で評価される」という仕事の構造です。あなたが考える力を持っていないという話でも、これまでの数年間が無駄だったという話でもありません。構造の中にいる時間が長かったから、そう感じているだけです。
構造は、変えられます。社内で案件を変えることも、戦略ファームや事業会社に移ることもできます。そして、その構造の中で積み上げてきた経験、経営層との接点、大規模な変革が止まる難所の知識、利害の異なる関係者の間で合意をつくった経験は、次の場所でも確かに活きます。
その言葉に言い返せなかった夜を、動き出すきっかけに変えてください。
Strategy Talentでは、総合系・IT系ファームで常駐やPMOを中心に経験を積んできた方の、経験の棚卸しから進路の比較、選考の準備までをサポートしています。まだ何も決まっていない段階でも、無料キャリア相談からお気軽にご相談ください。