マネージャーに昇進し、大規模なプロジェクトを任されるようになった。評価も得ている。それでも、「この先も同じ種類の案件を回し続けるのだろうか」「もともと関わりたかった戦略の仕事から、むしろ遠ざかっているのではないか」と感じることがある。総合系・IT系ファームで経験を重ねるなかで、そうした思いを抱いている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
一方で、若手の頃と比べると、動くことの重みは増しています。職位、待遇、チームへの責任、そして家庭。失うものが見えるからこそ、踏み出すにも踏みとどまるにも迷いが生じます。
本記事では、マネージャー以上の立場で総合系・IT系ファームから戦略領域などへ転身を考える際に、整理しておきたい論点をまとめます。
※ 本記事でいう総合系・IT系ファームとは、BIG4系のコンサルティングファーム、アクセンチュア、ベイカレントなどに代表される、幅広い領域を扱うファームを指します。内容は一般的な傾向であり、職位の扱いや待遇、期待される役割は、ファームやポジション、個人の経験によって大きく異なります。
マネージャー以上の転身が、若手の頃と異なる点
若手の転職では、ポテンシャルや基礎的な思考力が評価の中心になりやすいと言われます。これに対してマネージャー以上では、「入社後、その職位にふさわしい役割をどのくらいの期間で果たせるか」が問われます。
つまり、これまでの実績が評価される一方で、新しい領域で求められる役割との差分も、より厳密に見られるということです。この差分をどう捉え、どう埋めるかが、マネージャー以上の転身における中心的な論点になります。
タイトルが下がる可能性とその考え方
領域を変える転身では、現職よりも下の職位での提示となる場合があると一般に言われます。ただし、これは一律ではなく、応募先の方針や、これまでの経験と応募先の仕事との重なり具合によって異なります。
タイトルが下がることは、心理的に受け入れにくいものです。そのうえで、次のような見方もできます。
- タイトルは「その環境での期待役割」を表すもの:同じ「マネージャー」でも、ファームや領域によって求められる中身は異なります。現職のタイトルと単純に比較できるものではありません
- 立ち上がりの猶予を得られる面がある:現職と同じ職位で入ると、初日からその水準の成果を期待されます。ひとつ下の職位で入ることで、新しい型を身につける時間を確保できるという考え方もあります
- 確認すべきは入口より、その後の道筋:入社時の職位だけでなく、次の職位に上がるための目安や評価の観点を、選考の過程で確認しておくことが大切です
もちろん、検討した結果、タイトルを下げてまで移ることに納得できないのであれば、それは尊重すべき判断材料です。無理に自分を説得する必要はありません。
年収の一時的な変動の捉え方
待遇についても、職位と同様に、転身の直後に変動が生じる場合があります。上がることも、下がることも、ほぼ変わらないこともあり、事前に一般論で見通すことはできません。必ず個別の条件として確認してください。
そのうえで、考え方としては次の点が参考になります。
- 単年ではなく数年単位で見る:入社直後の条件だけでなく、その後の昇進や役割の広がりを含めて考えます
- 報酬の構成を確認する:固定部分と業績連動部分の割合、評価の仕組みは企業によって異なります。総額だけでなく、安定性の観点からも確認します
- 生活の基盤と照らし合わせる:住宅、教育、家族の働き方など、固定的な支出との兼ね合いで、どの程度の変動なら許容できるかを先に把握しておくと、条件提示を受けたときに落ち着いて判断できます
- 待遇だけを判断軸にしない:待遇の上下だけで選ぶと、入社後に仕事の中身とのずれを感じやすくなります
期待される役割の違い:デリバリー管理から論点設計・案件獲得へ
総合系・IT系ファームのマネージャーは、大規模なプロジェクトのスコープ、進捗、品質、リスク、要員、収支を管理し、約束した成果物を確実に届ける役割を担うことが多いと言えます。これは高度な仕事であり、誰にでもできるものではありません。
一方、戦略領域のマネージャーに期待されやすい役割は、重心が異なります。
| 観点 | 総合系・IT系で多い役割 | 戦略領域で期待されやすい役割 |
|---|---|---|
| 責任の中心 | 計画どおりに成果物を届ける | 解くべき問いを定め、答えの質に責任を持つ |
| チーム | 大人数、役割分担が明確 | 少人数、一人ひとりの検討内容に深く関与 |
| 日々の時間の使い方 | 進捗・課題・リスクの管理、関係者調整 | 論点と仮説の設計、分析の方向づけ、経営層との議論 |
| クライアントとの関係 | 事業部門やIT部門の責任者が中心 | 経営層や経営企画が中心 |
| 上位職での期待 | 既存案件の拡大、継続 | 新たな論点の提起による案件獲得 |
※ 一般的な傾向であり、ファームや案件によって異なります。
特に意識しておきたいのは、次の2点です。
- 論点設計:何を管理するかではなく、「そもそも何を解くべきか」を自ら定めることが求められます。作業計画の前に、問いと仮説の構造を描く力です
- 案件獲得:職位が上がるほど、クライアントの経営課題を捉えて新しい相談を引き出す役割の比重が高まります。既存プロジェクトの延長ではなく、課題の提起から始まる関係づくりです
事業会社やPEファンドなどへ移る場合は、これに加えて「支援する側から当事者へ」という立場の転換も生じます。
強みになる経験
役割の違いがある一方で、総合系・IT系ファームでのマネージャー経験には、転身先で強みになりうるものが多くあります。
- 大規模チームの運営:多様なメンバーを束ね、長期のプロジェクトをやり遂げた経験は、組織を動かす力の裏づけになります
- クライアント経営層との関係:ステアリングコミッティなどで経営層に説明し、難しい局面で判断を仰いできた経験は、経営層との議論の土台になります
- 実行の現実を知っていること:構想が現場やシステムに落ちる過程で何が起こるかを知っていることは、実現性のある戦略を描くうえで価値があります
- 収支と契約の管理:プロジェクトの採算や契約条件を管理してきた経験は、事業を数字で捉える力につながります
- 特定領域の専門性:業界や業務、テクノロジーに関する深い知見は、テーマによっては大きな差別化要因になります
これらを語る際は、「何人のチームを管理したか」という規模だけでなく、「どのような局面で、何を判断し、何が変わったか」まで言葉にしておくと、領域が変わっても伝わりやすくなります。
家庭やライフイベントとの兼ね合い
マネージャー以上の年代は、結婚、出産・育児、住宅の取得、親の介護など、ライフイベントが重なりやすい時期でもあります。
- 新しい環境での立ち上がり期は、学ぶことが多く、時間的にも精神的にも負荷が高まりやすくなります。家庭の状況が大きく変わる時期と重なる場合は、順序を考える余地があります
- 働き方の柔軟性(リモートワーク、出張の頻度、休暇の取りやすさなど)は企業やチームによって異なります。制度の有無だけでなく、実際の運用を確認します
- 待遇や働き方が変わる可能性について、ご家族と早い段階から話しておくと、内定後の限られた時間で慌てずに済みます
家庭を優先して時期をずらすことは、キャリアを諦めることではありません。どの時期に、どの程度の負荷を引き受けるかを、自分で設計するということです。
動く前に確認すべきこと
- 転身の目的は言葉になっているか:「今の仕事から離れたい」だけでなく、「何に関わりたいのか」を説明できるか
- 現職の中で実現する余地は残っていないか:戦略部門との協業案件、構想策定フェーズへの関与、提案活動への参加など
- 職位と待遇の変動について、許容範囲を把握しているか
- 入社後に期待される役割と、評価の観点を確認したか
- 論点設計や仮説構築の型を、選考前から鍛え始めているか:マネージャー以上でもケース面接が課される場合があります
- 現職での責任をどう引き継ぐか:担当プロジェクトやメンバーへの影響を抑える退き方は、その後の信頼にも関わります
- ご家族と、時期と条件について話ができているか
これらを確認した結果、「今は動かない」「一年かけて準備する」という結論になることもあるでしょう。現職で経営層との接点を広げたり、上流のフェーズに関わる機会を増やしたりすることは、将来動く場合にも、現職に留まる場合にも活きる準備です。
まとめ
マネージャー以上での転身は、若手の頃よりも考慮すべき要素が多く、職位や待遇が一時的に変動する可能性もあります。一方で、大規模チームの運営や経営層との関係構築といった経験は、領域が変わっても確かな強みになります。大切なのは、役割の違いを正しく理解したうえで、ご自身とご家族にとって納得のいく時期と形を選ぶことです。
Strategy Talentでは、転身ありきではなく、現職に留まる選択肢も含めて論点を整理するご相談を承ります。まだ迷いのある段階でも、お気軽にお声がけください。